アイカツ! 26-37 話 感想
『アイカツ!』 1st シーズンの第 3 クールに当たる 26-37 話の感想記事です。
初の PR 入手やクリスマス、美月さんとの共演、そして映画の初主演と、順調にキャリアを積んでいるいちごちゃん達だが、このクールでは様々な変化が訪れる。新キャラがどしどし放り込まれたり、勝負色が今まで以上に強まっていったり、ユニット路線も強くなったり。まさしく起承転結の "転" に当たるクールだ。
26 話『さくらの季節』
さくら登場回。
いちご目線の物語でいえば、"いちごらしい先輩" を模索するという、"キャラ" 系列のお話か。
完璧に見える後輩に対して自分に何が出来るのか。エピソードの中心はさくらだけど、主役はきちんといちごがやっている。一方、さくらちゃんの紹介もこなさなきゃいけないので、お話としては結構テキパキ進む。美月に魅せられた "原体験" からこれまでの経歴、家族(左近)との絡み等々。
"導く側" としてのお話でもあるが、『アイカツ!シリーズ』はこの時から結構苦戦していたんだな、と思わなくもない。この一話単体で観れば完成度の高いお話だと思うけど、これ以降のことを思うとどうしても "後輩キャラ" としての北大路さくらは持て余し気味だった上に、いちごの先輩ムーブもほとんどなかったと思う。一緒に戦う戦友的な方向性だと、一年目終了時点までならそれなりに描けていたことを考えると、『アイカツ!』が得意とする方向はそちらなんだろうし、そっちに集中したっていうのは正解だったようにも思う。
27 話『開幕☆フレッシュガールズカップ』
来年以降どうなったか不明のイベント No1 フレッシュガールズカップ。筐体では生き残ってたみたいだが。
さくら参戦で 6 人の大所帯となったメイン勢をパパッと捌きながら、"楽しむ" "ファンのため" という 2 大概念をガッチリ抑えている。ただぶっちゃけこのお話自体は大分内容が薄い。次回が本番なので、そのための準備回という色が強い。この辺は筐体都合も絡んでくる IP なだけに辛い所でもある。
キャラを上手く捌くっていうのは、ともすれば機械的な演出になりがちだ。らぶゆー・血を吸うわよ・北大路劇場を判を押したように羅列しても、逆にキャラが死にかねない。そこで特訓のシークエンスを上手く使い、それぞれのキャラのそれぞれの色を描いていたのは、いいことだと思う。
にしても、おとめちゃん・さくらちゃん・あかりちゃんもそれぞれの年代で無双したりしてたんだろうか。
28 話『美月とスッポン』
いちごと美月の物語第三弾。
6 人での戦勝会→決勝・準決勝に向けた 3 人の特訓→いちごと美月 という風に徐々に筆を狭めていくのが印象的。いちご世代の物語に広く敷衍する『ヒラリ / ヒトリ / キラリ』的な世界観が見えてくる。主人公の一番の親友というポジションにいるあおいちゃんでさえ、蚊帳の外感がする所に強い物語性を感じる。
これ以降色んなアイドルが例えられる "太陽" のモチーフがここで登場。当然ながら美月との対比であるし、殊 Soleil の 3 人に限っていえば、『エンジョイ♪オフタイム』に於ける 太陽・星・雲 のお話とも被ってくる。この辺を観てると、美月さんといちごちゃんが組む方向性も十二分にあり得るんだけど、そうならないのが 1st シーズンの面白いところだ。
それはそうと、ここでも容赦なく主人公を返り討ちにする神崎美月。強い。
29 話『アイドル☆ティーチャー』
後に Soleil となる 3 人が、新入生の前で授業をするっていうお話。
「これまでに感じたこと・経験したことを話して欲しい」ってことで、ともすれば復習回かと思いきや、あおいちゃんのメンター適正を描く回だったり。26 話の感想ともつながるが、いちごメインでそちら方面のお話を伸ばしていけなかったので、その代わりにあおいに白羽の矢が立った感じもする。で、出来上がった話を観てみるとその判断は正しかったと思う。未来で行われる対あかりエピソードみたく、時間を掛けてやるんならいちごメインでもお話は作れるだろうが、続くかわからん単発エピソードなら、あおいちゃんが一番しっくり来る。蘭に対する歓声、いちごのオンステージなんかも「ありそう」感が強くてポイント高い。
繰り返し書いてるように、今後メンター話が増えていくわけではない。しかし、キャリアを積んで、二年生になって、後輩も出来て…… っていう今の位置をしっかり描いておくことは、やっぱ大切だと思う。
30 話『真心のコール&レスポンス』
「コール・アンド・レタスポン酢」や「話術の心得」というキーワードから、トークとかステージ上でのコールパフォーマンスについてのお話かと思いきや、そこを外して「コミュニケーション」へと筆を運ぶお話。
グリーングラスがちゃんとレスポンス出来ていれば何もこじれなかったとか言ってはいけない。
さくらメインなので、いちごもメンターポジを担当する。言葉で背中を押してあげられるのは彼女にしか出来ない役割だ。一方で、いつものいちごの情動主義だけで完結するわけじゃなく、あおい・おとめの力も借りての PR ゲット。こういう役割分担も、いちごに重荷(属性)を負わせなかったという結果を観てみると、良かったのかも知れない。
ステージではコール・アンド・レスポンス演出あり。当然ながらこの一回限りの激レア演出である。
31 話『母の日はアイドル!』
ぐぐっと作品の中枢・物語の本筋に食い込んでいくお話。文脈をがっつり作っていく作業。
お話を貫通しているのは名曲『Wake up my music』。星宮りんごの原点、そしてりんごといちごの関係性を、そのサブタイ通りにガッツリ描いていく。近所の公園のステージという "場" と、『Wake up my music』という "曲" の 2 つの媒介を通して、過去と今・りんごといちご・マスカレードと SL のアイドル達 をつないでいくという構造。物語世界全体に一気に奥行きが出てきて、いちごの運命性みたいなものも強まっていく。
新しく学んだ教訓として "体に覚え込ませる" っていうのがあるんだけど、どこか体育会系の匂いのする古臭い教訓ではある。なんだけど、懐メロ・懐かしのトレーニングという舞台装置のある今回に関しては、その教訓がピッタリ合致するっていう構成も面白い。まぁ、現実のアイドルも、歌って踊って っていう部分は大分体育会系のノリに近い所あるしな。
『Wake up my music』という名曲を扱っているわけだが、描かれるのは主に縦の繋がりの 2 人(= いちごとりんご)であり、横の繋がりの 2 人(いちごとあおい)にまでは筆を伸ばさない。恐らくお話の要素が過積載になることを避けてのことだと思う。ただでさえ、りんごさんの正体(ほぼ)判明まで描いているのに、その上いちあおまで掘り下げるとなると、流石に話がゴチャゴチャするもんな。その代わりという訳じゃないが、いちご以外のキャラクターも、コンビを組むという設定を活かしてサクッと捌いている。キャラがキャラらしい動きを(機械的じゃなく)しているっていうのは、やっぱり大勢のキャラを扱う上ではかなり大切だと思う。
32 話『いちごパニック』
これまで「楽しむ」を只管に続けてきたいちごに訪れる、CM とライブのバッティングという大きな試練。
積極的に二兎を追っていくいちごスタイルだけど、彼女のバイタリティで全部解決!とならないところがいい。いちごの気力体力時の運というのは全て優れているけども、だからといって彼女一人で全て成し遂げられるほど完璧超人ではない。レッスンビデオを送って貰っても、踊り込みが足りなければミスをしてしまうし(= 31 話の "目分量")。それが原因で色々考えちゃって袋小路に迷い込んだりもする。でも、星宮いちごは決して一人ではない。信頼し合える仲間達や、導いてくれるデザイナーと教師陣、そして支えてくれる周りのスタッフ等々、「アイドル」の周りには色んな人達がいて、その人達の力でもってアイドルはアイドル足り得ているということ。CM 撮影の描写を、打ち合わせからスタジオ撮影・ロケ撮影と事細かに描くことで、その解像度を上げてスタッフ達の存在感をしっかり肌で感じられるようにしていたのが印象的だった。それでいて、最後の決め手が「笑顔」である所なんかも、星宮いちごの物語らしい。その笑顔に惹かれて、その笑顔を観たくて、彼女の周りには人が集まり、彼女はその人達に(或いはその人達を超えて)笑顔と元気を届けているんだろうなぁ。まさしく、"星宮いちごの天才性" であり、いちごがアイドルたる所以なんだと思う。
33 話『チャンス&トライ☆』
恐らく 1st シーズンでは一番微妙な評価を受けてるのがこの Tristar オーディション編かなぁ、と思う。個人的には特別好きでも嫌いでもないんですが、何となくネットで批判が多くなるのはこの辺からな気がする。
一年アニメでの第 3 クールは、起承転結でいう転の役割を果たすことが往々にしてあるけど、Tristar 編なんかはその最たる例。今までソロでお互い切磋琢磨しながらやってきていたが、ユニット推しに路線変更という感じ。しかし、美月さんはこれまでも割と意味深な視線をいちごちゃんに投げかけていて、かつこの世界の頂点が『マスカレード』という 2 人組ユニットであることを考えると、そこまで不自然な流れでもない。だからこそビビるのは枠が美月含めて 3 人であり、いちごあおい蘭の中から 1 人は落ちるということ、そしてこのお話の最後に新キャラ(かえでちゃん)が唐突にぶち込まれて、「あれ?じゃあ選ばれるのはいちご一人?」みたいになる所(実際はご存知の通り違う形に落ち着くわけだが)。この辺のグッチャグッチャ回していく感覚は、個人的にはそこそこ好きな部類。
ただ、このお話のみに限っていえば、「美月の圧倒的強者であるが故の孤独」ってことがわかる以外はほぼ内容がない。なのでオーディションにかこつけてトンチキパワーを上げて、そちらで画面を保たせる作りになっている。この構成は『オンパレード!』までずっと続くことになるわけだけど。また、内容が薄くなってしまうのも仕方がない面がある。結局の所、このお話は作品全体を次のステージに推し進める為の準備回でしかなく、これまでのまとめのような意味合いがあるためだ。ヒカリや SpLasH ! がちょこっとだけ出るのもその証左だと思う。またこれまでのまとめであるなら、文脈を最大限に使って濃いドラマを作ることも出来るが、それは次々回に蘭ちゃんがやってくれるわけだし。となると、この回はトンチキで繋ぐしかないわけだ。
34 話『Hello☆スーパーアイドル』
かえでちゃん登場回。メタ的に観れば、ここで視聴者に "かえでの凄み" を納得してもらわなければ、主人公達を差し置いて美月の横に並ぶことへの説得力がなくなる。
序盤に描かれるのはアメリカナイズされた大規模自主オーディション。厳しいことを言うと、「『スターズ!』や『フレンズ!』ならこれだけで納得させてそうだな」とか思ってしまった(エルザの扱いとか)。逆に言うと、こういう点は『アイカツ!』は他 2 作より明らかに優れていて、彼女の凄みはその心理や姿勢にこそあると描いてくる。"楽しむ" ことが大切であるというのは今まで描いてきた通りだが、そこから更に一歩踏み込んで、「楽しませる」ということ。普通のライブでも、オーディションでも同じ。常に観てくれている人を楽しませたいというエンターテイナーとしての高いプロ意識。そういう所に "凄み" を置くことで、グランドキャニオンやヤンキースタジアムでやる大規模なパフォーマンスでも、レッスン室で披露するタップダンスやマジックでも、全ての描写が "一ノ瀬かえでならでは" という所に繋がっていく。裏を返すと、この完成度の高さが、彼女の成長の余白をなくしてしまい、『2nd シーズン』以降持て余してしまうことに繋がるわけだが。
一方で、我らがいちごちゃんについての描写も欠かしてなくて、あおい蘭の 2 人と違ってかえでのやることに「楽しめる」才能を発揮している。こういう所をちゃんと描くのは凄いと改めて思う。
35 話『涙の星』
涙涙のお話。さらば蘭ちゃん、永遠に(嘘)。
公開面接って体でこれまでの総集編的に進めるかと思いきや、それが最後の別れに効くっていうテクニカルな構成。別れの直前にわざとらしく回想を入れるんじゃなくて、事前に入れておくっていうのが憎い。あおいや蘭の面接の受け答えもそれっぽいのがいい。結末を知ってる立場からしてみれば蘭が選ばれるのも納得できる。後はいちごちゃんの答えが相変わらず "星宮いちご" であったり。思い出と別れの間に "今" の最後であるホットケーキ作りが挟まるのもエモさ倍増。
1 人しか選ばれない、というのは言うまでもなく『ヒラリ / ヒトリ / キラリ』の世界観であり、『アイカツ!』 1st シーズンの中で最もそれが感じられるお話であると思う。
36 話『トライスター テイク オフ☆』
Tristar 結成(嘘)回。
Tristar が単体のユニットとしてどうこう ってお話ではなく、蘭の個人エピソード、或いは次回も合わせて 2 話で Soleil 回って見方も出来るかも知れない。
長い尺が割かれているのは、スーパーアイドルである 2 人になんとかついていく蘭の姿。そしてそれに並行して、学園に残ったいちごあおいの 2 人と超多忙な蘭とのすれ違いも描かれている。ただここで決定的な破綻はせず、サプライズライブはきちんとやりきれているのは蘭の凄さか。或いは『アイカツ!』の作品としての優しさもあるかもしれない。それでもこれまでの 35 話にはなかった胃がキリキリする感じ・全部がちょっとズレている感じが視聴者を襲ってくる。これは次回のカタルシスに向けた "貯め" ではあるんだけど、この辺の空気感の変わりようが受け付けないっていう視聴者も一定数いるみたいではある(= Tristar 編の低評価に繋がる)。そもそもこの下がったまま一話が終わって週をまたぐ っていう事自体、『アイカツ!シリーズ』全体で観ても少な目な終わり方だ。その中でも特に『アイカツ!』はその傾向が強く、基本的にはお話の途中で下がっても、終わる頃には上がっている。もしくはその次の回へ向けて緊張感を伴ったまま終わる。なので、この下がったまま終わる回っていうのはそれだけで特別な意味を持つわけだ(e.g. 176 話)。
37 話『太陽に向かって』
第 3 クールの締めにして、Tristar 編の最後。我らが大正義ユニット Soleil の結成回。
33-34 話で火をつけた勝負の導火線、35-36 話で貯めた "キリキリ感"、それらを爆発させる回である。
まぁそのカタルシスを得る前に、今回もギリギリまですれ違いさせて "貯め" を作るんだけど。そのキリキリ感は最高潮に達したときに蘭ちゃんは遂にステージでミスを犯す。前回はそこを "作品の優しさ" で守っていたけど、今回はそれがない。もしくは、そのシーンを 3DCG ステージでなく静止画ダイジェストで処理しているのは、ショックを最低限に抑えるためのある種の "優しさ" なのかもしれない。
Tristar 編に微妙な評価を下す人がいる理由として、今までなかったこの "キリキリ感" が合わなかったということに加えてもう一つ、着地点にモヤモヤが残る というのがあるんだと思う。Soleil 3 人の友情物語として観ればこれ以上ない結末だが、今まで描いてきた "アイドル活動" としての視点で観た場合、「これでいいのか?」っていうのは出てくると思う。即ち、今まで散々 "ファンのため" ということを描いてきたにもかかわらず、そのファンに無断で Tristar を抜けていいのか ということだ。これを蘭からのアクションでやってしまうと彼女に味噌がついてしまう。なので美月さんに蘭の現状を見抜かせて、メールで脱退を言い渡させるわけだけど、こういう所が "いちご世代の物語" が美月依存していると言われる所以だ。キャラクターとしての原罪を負いすぎている気がしてならない。
あとまぁ結局この 3 人に収まっちゃった辺りが、『ヒラリ / ヒトリ / キラリ』の色を弱めたかな、と個人的には思う。「35 話のアレはなんだったんだ?」となるし。だから 2nd シーズンではもっと勝負の色・バチバチする感じを出していく方向性にしたんだろう(それも不発だった感じはあるが)。