アイカツフレンズ! 66 話『わかば、まるっとやっちゃうぞ!』感想

春風わかば、本格始動!な回。
顔見世程度には出演していた彼女のオリジンにザクザク食い込んでいくお話。
と同時に、"導く側" の描写だったり、挫折の苦さだったり、"一歩目" の尊さだったり、割と盛り沢山な一話。

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©BNP/BANDAI, DENTSU, TV TOKYO

ミライさんから言い渡されたミッションを遂行するために SH 学園にオープンキャンパスのお手伝いにいくわかばちゃん。そこで『アイドル 春風わかば』の在り方について色々考えたり、探し回ったり、見つめ直したり……というストーリー。
正直、展開が早いとは思う。もうちょいミライさんとアレコレ特訓する様子が描かれてた方が個人的には好きだったかも。54・55 話でそういう描写があったので、全くなかったわけじゃないんですが。
ただ中身に不満があったかというとそうじゃなく。寧ろ過積載気味に詰め込んだ要素をガリガリ消化させてくれるいいエピソードだったと思います。

 

後輩キャラのわかばちゃんがいることで、"導く側" の描写が強くなるのはいつものこと。今回は PP(みお)・HC・RM(かぐや) の 3 組それぞれがそれぞれに先輩っぽいことをしていたのがよかった。

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まぁ、特になんといってもかぐやちゃんだろう。いつぞやのドッキリではないがまるで 3 人目の姉妹のように接し、自らの体験を踏まえながら感情の受け皿となったり、背中を押してあげたりと、いつものかぐやちゃんとはまた違った一面を魅せてくれた。しっかりしながらもどこか抜けていて、姉の才覚を羨み、姉の振る舞いに振り回されたりする彼女が、わかばちゃんという "後輩キャラ" を挟むことで、地に足のついた 1 人の一人前のアイドルとして描かれる。こういう違う面を見せられるとそれだけキャラに立体感が出てくるし、何より成長を感じられるのが嬉しい。62 話を活かした描写だった。

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HC との絡みはあくまで "SH のオープンキャンパスの雰囲気" を描く為だけのシーンだろう。何だけどそこで彼女たちが担当するのがアピールの練習というのが好き。『フレンズ!』界では群を抜いてアピール練の描写が多かったもんね。後はやっぱり "地道な努力" について言及するのが、PP でもなく RM でもなく彼女たちだっていうところも好き。そういう泥臭いのが似合うのよね、HC。

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PP、というくくりだとあいねちゃんの影が薄すぎたので、みおちゃん個人に注目すると、最後のひと押しをしてくれたところなんかはとても先輩っぽかったわけだが。それ以上に """""あの""""" """""湊みお""""" が(わかばちゃんのためとはいえ)あいねちゃん以外とステージに立つとは。それも PP の曲で。感慨深いですね……。

 

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肝心要のわかばちゃんのオリジンについてだが、やっぱアイドルを目指した理由とかが出てくると一気にキャラの足元が固まる印象がある。8mm カメラの前でアイドルのマネゴトをしていた幼少期の記憶、そこから時が流れて いざ "オーディション" というものが身近な距離に感じられるようになった時、そこで背負ってしまった自分だけの十字架。ぶっちゃけこの辺ももうちょい小出しにしてくれたほうが味わい深かった気がしないでもないが、でも思ってた以上にしっかりとした "キャラの足場" を感じられた。

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後はやっぱり、この話をする以上 小早川こずえちゃん について語ることは避けられない。"幼少期を共に過ごした姉(のような存在)" なんてのはまんま RM とオーバーラップするわけで、その辺が 62 話や今回の絡みに繋がってくるところでもある。後はわかばちゃんが(無断替え玉受験という)割と暴走気味なことしてたのに、それを寛容に受け入れてくれたり、基本的に人がいい。

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勿論これだけでも良いキャラクターであることに間違いないのだが、個人的に最も惹かれたのは彼女が "アイドルになる夢を挫折した女の子" であるというところだ。別に過去全くいなかったわけじゃない(有名所では紫吹蘭の最初のルームメイト 近藤真子)が、やはり『アイカツ!シリーズ』というものを考えたらそれがどれだけ特異な属性かはわかると思う。女の子たちがアイドルを、或いは更にその上を目指して頑張る物語において、そのレースから降りた子にまといつく陰は、やっぱり無視できるものじゃない。

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でもこずえちゃんは、既にそれを受け入れ、自分の中で消化し、新たな夢を見つけて、そして悩めるわかばちゃんの十字架をおろしてあげて、その背中を押してあげられるくらいには、自分の足で立ててるわけで。
(新たな夢の出処が、2 人の原初の記憶からというのも素敵だ。)
そこには勿論、一つの物語があっただろう。でもそこにカメラを向けられないのが、児童アニメの、或いは『アイカツ!シリーズ』の性であり、残酷な部分でもある。

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こずえちゃんが楽しそうに幼少期の思い出を話してる時、わかばちゃんの気持ちを受け止めてあげた時、わかばちゃんと抱擁し新たな関係を築いた時、それらの描写から滲み出てくるほろ苦さが、なんともいえなかった。更には、(彼女がアイドルを諦めた直接的な原因は怪我だったが、その裏では)自分とわかばちゃんとの才能の差を実感していたという発言も含めて。こういう陰影を直接描くことは無理でも、描写に滲ませることで伝えてくるっていうのは、とても好きです。

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そんな彼女に「ファン 1 号」というセリフを言わせるのもまた、文脈の太さ・重さが凄い。

 

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こういった人に支えられて、新たな一歩を踏み出したわかばちゃん。今回描かれた彼女についての描写で特段興味深かったのは、彼女が "真似ること" の負の側面について自覚気味だったところだ。

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このトピックについては、どうしても私達『シリーズ』全体のオタクは「星宮いちごちゃん!」や「ひめ先輩のような S4 に」を思い出してしまう。彼女たちは一度それで痛い目を観て、砂を噛み、学び、そして立ち上がって『スタートライン!』に立った、という流れが歴史に刻まれている。それに対してわかばちゃんは既に「何者でもない自分」に対する引け目のような物を感じてるようだった。この辺の差異が結構面白い。まぁ思えばあかりちゃんもゆめちゃんも別に真似することが上手かったわけじゃないしな。ある意味、ダンスや歌や食レポなんかを上手く真似られる能力があるからこその悩みなのかもしれない。
そして当然ながらこのトピックの行き着く先は一つしかない。彼の名曲が示す境地、『オリジナルスター☆彡』だ。そこに辿り着くためにある少女は髪を切り、ある少女は街中を駆けずり回ってチケットの手売りをやった。そしてそこが到達点ではなく、彼女たちにとっての真のアイカツ!の始まりであり、『スタートライン!』だった。じゃあ今回わかばちゃんがそこに辿り着けたかって言うと、当然ながらそうじゃない。彼女は『スタートライン!』は愚か、髪を切ったりチケットの手売りをしたりする所にすら到着していない。

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でも、その先があることを知った。自分には、支えてくれる人がいて、応援してくれる人がいて、歌を聴きダンスを観てくれる人がいることを知った。そういうアイドルとしての原初の体験を、彼女がネガティブに捉えていた "モノマネ" を通じて得させることで、ポジティブなものへと変えていく手腕はとてもよかった。

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"真似る" と "学ぶ" について、語源やら何やらを今更ここに書くまでもないだろう。そういう大切なことはカレンさんが全部いってくれた。星宮いちごちゃんに憧れ、得意でない歌やダンスをいっぱい練習し、髪型やリボンもお揃いにすることなんて、別に悪いことではないのだ。それは紛うことなき "憧れは次の憧れを生む" 姿であるし、"バトン" が繋がれた証であるのだから。

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同じような "真似ることの肯定" は実は冒頭にもあって。モブ幼女達が PP の真似をしているところがそれだ。憧れるからこそ真似るということは極めて普通のありふれたことであり、そして全てはそこから始まっているという一つの証拠でもある。

今回のエピソードは、言ってしまえばあかりちゃんやゆめちゃんでは語り得なかった、より手前にある、よりプリミティブな教訓を描きたかったのだと思った。真似が人より上手いからこそ、それ以上でも以下でもない自分に引け目を感じていたわかばちゃんに対し、憧れを真似ることそれ自体はとても普通なことであり、人を模した物であっても与えた感動は本物であったと肯定してあげるお話、ていう感じだろうか。

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そして手前を描いたのなら、当然その先があって。あかりちゃんやゆめちゃんがやったような、『オリジナルスター☆彡』を求める話へと繋がっていくんだろう。その時力となるのが、真似る上手さから変換された学びの速さ ということになるのかな?まぁ次回を観なきゃわかりませんね。

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最後にステージについて。曲は PP の『みんなみんな!』ですが、あいねちゃんの代わりにわかばちゃんが立つという、『フレンズ!』では珍しいイレギュラーな構成(こういうのもっと増えて欲しい)。あかりちゃんのようなミスはなく、きちんと踊れていたのが流石わかばちゃんというべきでしょうが、一方で PP と比較した時に、オーラの量やエフェクト、アピールの有無等にガッツリ差異があったのが面白かったです。基本的には PP の方が画面がキラキラしてるわけですが、わかば × みお の場合は最後の最後にスポット演出を入れてきたのが『ジュエル』のステージって感じ。

そんなこんなで、『オリジナルスター☆彡』で『SHINING LINE*』で『STARDOM !』なお話でした。
まぁ盛り沢山で、感想をどう言語化するか非情に悩ましかったです。

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それはそうと『ジュエル』に入ってからやけにドッキリを推してきますね。
ひびきさんのアレがそんなに衝撃的だったのか?

 

最後に 33 話と 66 話の『みんなみんな!』のステージの比較動画を貼っておきます(宣伝)。